平成20年9月号「健康食品による健康被害」
近年の自然食ブーム、健康志向の高まりに伴い、テレビ健康情報番組、新聞チラシ、中吊り広告、インターネットなどは健康食品の情報で溢れかえっています。
驚きの視力回復、膝の痛みが消失、奇跡的にガン完治、その他さまざまなインパクトのある宣伝文句や有名人の利用体験談などで見る人の関心を惹きつけます。
健康食品とは、不足しがちなビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養補給を補助する食品で「サプリメント」とも呼ばれます。他に生薬、酵素、ダイエット食品など様々な種類があります。健康食品はあくまでも「食品」ですので、病気を治すことを期待してはいけません。
近年の過剰なまでの宣伝効果で利用者は年々増加していますが、「クスリじゃなく自然食品だから体にいい」と気軽な気持ちで口にしたことがもとで、体調を崩した、治療中の病気が悪化した、新たな病気を引き起こしたなどという健康被害も増加しており、大きな社会問題となっています。
「天然の有効成分のみを抽出した自然食品」などと効能効果が宣伝されていますが、抽出されたことにより数倍~数百倍に及ぶ不自然な量が健康を害する可能性もあるのです。
平成18年厚生労働省から「健康食品が原因と疑われる健康被害の報告例」が発表されました。近年、多様な方法で世界中から購入可能となった健康食品ですが、一部の商品を利用された方に健康被害が現れました。
ここでは厚生労働省が発表した”要注意”な健康食品と、その健康被害の一例をご紹介します。
●ウコン
ウコンは中国原産ショウガ科の植物で主に香辛料として用いられます。俗に「肝臓の機能を高める」といわれますが、日本で発生した健康食品による肝障害の原因の4分の1を占めるといわれます。
肝硬変の治療中の女性が粉末ウコンを毎日スプーンで1杯飲み、2週間後肝機能が悪化して肝不全で死亡したという事例があります。ウコンを服用して肝機能が悪化、黄疸が現れた2名の患者さんを筆者も経験しましたが、何れも即刻中止することにより回復しました。
消化器系に関しては食事中に含まれる通常量であれば安全とされていますが、過剰、長期の摂取すると下痢や腹痛などを起こすことがあります。胃潰瘍、胆石症の方は利用してはいけません。
●アガリスク
アガリスクは日本名をカワリハラタケといいブラジル原産のキノコです。「抗がん効果がある」「免疫力を高める」などといわれ、米国レーガン元大統領が皮膚がんの治療に利用したことが報道され一躍有名になりました。
しかし動物実験で製品の一部に通常使用量の5~10倍程度の量で発がん促進作用が認められ、厚生労働省は平成18年2月製品の販売停止、回収を指示しました。
また、アガリスクが原因による肝障害はウコンに次いで多いといわれ、厚生労働省は因果関係は特定できないとしていますが、劇症肝炎による死亡例も報告されています。
●クロレラ
クロレラは淡水に生息する緑藻のひとつで多量の葉緑素や栄養素を含みます。「免疫力を高める」「コレステロール、糖質の吸収を抑える」などといわれ、その利用体験者を新聞チラシなどでしばしば目にします。購入者の9割がチラシがきっかけだったそうです。
副作用として日光過敏症がよく知られていますが、クロレラの細胞壁は厚いため吸収されにくく、吐き気、下痢、腹部膨満感などの消化器症状があらわれることもあります。ビタミンKを多く含有するため、ワーファリンなどの抗血液凝固剤を服用中の方は使用してはいけません。
●中国製ダイエット用健康食品
「バストなど女性に大切な部分の脂肪は減らさず、余分な脂肪だけどんどん減らします」と無承認無許可ダイエット食品「天天素」が主にインターネットなどで販売されました。しかし、めまい、嘔吐、下痢、腹痛、動悸などの被害が相次ぎ、平成17年、約2ヶ月間服用していた都内の女子大生が心不全で死亡しました。
「天天素」を分析した結果、食欲抑制剤「マジンドール」と本邦未承認の肥満治療薬「シブトラミン」が検出されました。その他の中国製ダイエット用健康食品においても海外で数十人の死亡例が報告され、厚生労働省から健康被害者は総計124人、死亡例が3人にのぼると発表されました。
一部の中国製ダイエット用健康食品に検出されたフェンフルラミン(甲状腺ホルモン)は肥満治療薬として以前欧米で利用されましたが、肺高血圧による死亡例や心疾患が高率に引き起こされ1997年以降発売禁止となった経緯を持つ危険な薬剤でした。
●白いんげん豆
平成18年5月テレビ健康情報番組で紹介された「白いんげん豆ダイエット」を試した多くの視聴者が嘔吐、下痢などの消化器症状を起こし、被害総数965件、104名が入院という事態となりました。
不十分な加熱調理により残ったいんげん生豆に含まれるレクチンなどの成分が胃腸粘膜の炎症を引き起こしたといわれています。
●プロポリス
プロポリスも副作用報告が多い健康食品のようです。プロポリスはミツバチが殺菌、修理、防御するため植物の樹腋と唾液などの分泌物を混ぜた蜂ヤニです。「がんに効く」「抗菌作用がある」などの論文も多く、基礎的な実験ではその作用は認められています。
しかし副作用についての報告も多く、大部分は外用で用いた際の皮膚炎ですが、中には重篤な肝障害を発症した健康被害例もあります。
●にがり
にがりは海水から塩を精製した後の残留物で、主成分は塩化マグネシウムです。本来、豆腐を作るときの凝固剤ですので飲むものではありません。「糖の吸収を遅らせる」「脂肪の吸収を抑える」などダイエット効果が宣伝されています。
マグネシウムは医薬品では下剤として使用されますが、多量のマグネシウムを摂取できるサプリメントを利用した結果、心肺停止などの重度の健康被害例も報告されています。
●コンフリー
コンフリーはヨーロッパ・西アジア原産で古くから薬草とされ、日本には明治時代に牧草として移入されました。1960年代に「長寿に効果」などと宣伝されてブームになりました。コンフリーは有毒アルカロイドを含み、海外において肝静脈閉塞症から肝硬変に至る肝毒性も多数報告され、発がん性も知られています。
厚生労働省はコンフリーを使用した錠剤、粉末など健康食品がインターネットを使って販売されていることから、製造・販売、輸入などを自粛回収する措置を行いました。
●カヴァ
カヴァはコウショウ科の常緑木本です。ポリネシアなど太平洋の島々で、根茎を磨りつぶし水やココナッツミルクを加えて作られる伝統的な飲み物です。日本では有効成分を抽出製造化して健康食品として売られています。
「不安を和らげる」「免疫を活性化する」「不眠症によい」「がんによい」などといわれますが、肝障害の報告が相次いで、その危険性が示唆されています。
●アマメシバ
栄養価のある野菜としてマレー半島やインドネシアでは食用されてきましたが、日本では痩せるための健康食品として乾燥粉末、ジュース、錠剤に加工され売られていました。
40歳代の女性は4ヶ月間摂取して、咳、息切れ、呼吸困難を自覚し入院、胸部写真で閉塞性細気管支炎と診断されました。台湾では278人の呼吸器被害が発生して10人が死亡したと報告されています。
●イチョウの葉エキス
イチョウ葉エキスは特に脳血管循環の改善効果を有するという報告があり、日本においても「頭がよくなる」「痴呆防止」などと宣伝されています。まれに軽度の胃腸障害、頭痛、皮膚炎が報告されていますが、通常の摂取量では副作用の問題はないようです。
平成14年、国民生活センターから市販のイチョウ葉エキス製品中に、アレルギーを起こす高濃度のギンコール酸があると報告されました。
また、アスピリン、ワーファリンなどと併用すると出血傾向が起きるといわれます。
かかりつけ医に相談してみることが手っ取り早い方法です。遠慮は要りません。既に利用中の場合は健康食品の成分が病気を悪化させたり、服用薬の効能を変えることもありますので、体調不良を感じたらすぐ中止してかかりつけ医を受診しましょう。 ご自身の判断で現在の病気の治療を中止しては絶対にいけません。
健康食品(サプリメント)は効かない、怪しい、うさんくさいとは言いません。健康食品は上手に利用すれば、安全かつ健康増進の味方に成りえるものと考えます。
しかし、「健康食品」と宣伝されるものでも、反対に健康被害を引き起こすこともあることを忘れないでください。
参考資料
健康食品ウソ?ホント?(東京都福祉局健康安全課)、ANTI-AGING MEDICINE別冊(内藤裕史)、「健康商品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
(神田医師会 遠藤 素夫)