平成19年12月号 やけど
家庭内や職場でのちょっとしたやけど。とくに冬場に多い事故です。一般的に良く知られているやけどをしたら“冷やせ”などの常識について一般家庭で役に立つと思われる処置方法などについてお話します。
炎や湯などの熱による障害であるやけどは、まず冷やしましょう。冷やし方は、もしもやけどの部位が指先ならば水に氷を浮かべてそこに指を浸ける。冷たくてしびれてきたら、少し休み、ふたたびヒリヒリ感を感じてきたら再び冷やす。その繰り返しを2時間ほど続けるのが良いでしょう。他の部位で器につけることが困難なひざや腹部などの場合は、ポリ袋に水と氷を入れて当てることで冷やしてください。
ズボンや上着など着衣で覆われた部位に熱湯や油などをこぼしてしまった場合はどうしたらいいのでしょうか。家庭内ではともかく、外出先ではズボンやスカートを脱ぐわけにもいきません。そんな場合は熱曝露の時間を短縮するのが大事です。手近な冷水をかける、ジュースやビールでもかまいません。とにかく緊急に温度を下げてください。
やけどの重症度は、
【曝露された温度】× 【曝露された時間の長さ】
で決まるのです。
湯たんぽや電気アンカ、最近ではファンヒーターなどで受傷することの多い低温やけどは深くまで障害が波及する「重症の」やけどが多いのです。その原因は上記の【曝露された時間の長さ】が長いからです。寝ていて意識が低下している間にジワジワとやけどが進行し、『アツイ!』と感じて目が覚めたときには深くまでやけどで傷害され、大きな傷になってしまうのです。
え?そんなばかな!と、思う方が多いと思います。医学会でも近年ようやく認知されてきた知見ですので当然です。なぜ消毒しない方がよいのか不思議でしょう? 説明しましょう。やけど(ケガでも)障害を受けた皮膚は新しい細胞を生産して治ろうとします。その新しく生産された細胞や自然の治癒メカニズムが、ばい菌を殺す目的の消毒薬の刺激で阻害(邪魔)されると考えて下さい。
ではどうすればよいのでしょうか?
傷ややけどは濡らしてはいけない。そんな習慣がまだ一部にあるようですが、実は洗ってしまう方が細菌感染のリスクが少なくなるのです。その理由は、やけどやケガで皮膚の表面が剥がれると体液や血液が滲み出してきます。それが固まって痴皮(かさぶた)になりますが、そのような付着物が栄養となり細菌が増殖してしまうのです。そんな状態で消毒をしても付着物の中で増殖する細菌には届きません。むしろ、洗い落としてしまった方が結果がよいのです。
医療現場ではガス爆発などの全身やけどでも洗浄しています。濡らしてはいけないと誤解して、ビニールで密封してはいけません。シャワーをかけて、石鹸を使って洗ってしまいましょう。日本の上水道はほぼ無菌です。洗ってスッキリが正解なのです。その後に医療機関で処分された塗り薬をぬるのが良い方法です。
やけどの痛みはいやなものです。しかし、やけどが痛むのは傷が浅い証拠です。ケロイド体質ではなくて、治療が適切であった場合には「痛い」やけどは傷なく治る可能性が高いのです。逆に前に説明した低温やけどは深くまで傷害されて神経末端が焼けてしまうから痛みを感じないのです。このほうが傷が残ります。
以上、やけどについて知っているとお得な情報を述べました。いうまでもなくまず早く冷却する、あるいは冷却しながらお近くの医療機関を受診してください。なによりも、みなさんが不幸にしてやけどなどしないことが最も大切です。酒に酔って暖房機の前でうたた寝なんてしないで下さいね。
神田医師会 北原東一