平成19年9月号「前立腺肥大症について」
前立腺は男性固有の組織で、膀胱の下方に尿道を取り囲むように存在しますが膀胱の前にあることから前立腺とよばれるようになったそうです。その役割としては精嚢腺液と共に精液を構成する前立腺液を産生していて、前立腺液に含まれる成分は、精子の運動を促す役割をしていると言われています。
構造的には前立腺はミカンの実と皮の関係に例えられ、いわゆる良性疾患の肥大症は内側の内腺と呼ばれる部分から、癌は外側の外腺と呼ばれる部分から発生します。
いずれも、長年にわたる男性ホルモンの影響によるもので、肥大症の結節は50才位から発生し始め、50才代では約7割の方に結節の増大を認め、その約3分の1の方が治療を必要とする症状が出てくるとされます。
症状としては、”尿の勢いが悪い””夜中に排尿のためにたびたび起きる””残尿感がある”などといったことから始まります。自覚症状の程度を計る指標として国際前立腺症状スコアー(IPSS)というものを用います(表1)。
これは7項目の症状からなっていて、頻尿、残尿感などの蓄尿症状、尿腺細少などの排出症状との大きく2つに分けられます。
それぞれの症状に関し0から5までの6段階に評価して、全体を足し算したものをスコアーとし、0から7までを軽症、8から19までを中等症、20から35までを重症と分類します。また、全般的な満足度を測る指標としてQOLスコアーも用います(表2)。
もし症状が多少でも気になっている方はご自分でスコアーを出してみてください。
診断は上述したIPSS、QOLスコアー、直腸指診、超音波検査、尿流量検査、残尿測定などで行います。直腸指診では前立腺の大きさ、硬さをみて、超音波検査では大きさ、形状、内部構造をみます。尿流量検査では実際に排尿していただいて、 全体の排尿量、1秒あたりの排尿量、排尿時間を測定して評価します。
また、採血でPSA(前立腺特異抗原)を測定して癌を否定しておくことも重要です。
癌が否定されて肥大症であれば良性疾患なので、前立腺が単に大きいということだけでは治療は必要ありません。ただ、夜間頻尿が3回以上あって十分寝た気がしない、尿が我慢できずに漏れそうになる、かなり力まないと尿が出ない、排尿に時間がかかって、外出先で後ろに人が待っていると気になって余計出が悪くなって時間がかかるなど、自覚症状がある程度以上強い患者さんは治療が必要になってきます。
治療法としては薬物療法と外科的手術療法に大きく分けられますが、治療法の選択は全般的な重症度判定基準にもとづいて行われています(表3)。
1.薬物治療
症状が軽度であればα1(アルファーワン)交感神経遮断剤(ブロッカー)、抗コリン剤、植物エキス製剤、漢方製剤を単独か組みあわせて使います。α1ブロッカーは前立腺部尿道に働いて前立腺平滑筋の緊張を緩めて尿腺を太くする作用があると同時に、頻尿、残尿感などの刺激症状も緩和するともいわれ、最近では第一選択の薬にもなっています。
また、頻尿、尿意切迫感といったいわゆる過活動膀胱症状を伴う場合は抗コリン剤を併用することも多くなってきています。植物エキス製剤と漢方製剤は主に頻尿や残尿感などの膀胱刺激症状を緩和する目的で用いられます。
2.手術療法
症状が中程度から高度で、尿閉といって尿が全く出なくなってしまったり、排尿時にかなり力まないと出ない、あるいは残尿が多くあるような患者さんには経尿道的前立腺切除術(いわゆるTUR-P)を行います。
TUR-Pは前立腺肥大症の治療のゴールデンスタンダードと言われるもので、尿の勢いを確実に良くすると同時に尿の回数もある程度少なくすることができますが、10日間ほどの入院が必要になります。
3.その他の治療
温熱治療、レーザー治療など、以前一時注目された治療でしたが、効果、コストの面から最近では一部の限られた施設でしかあまり行われなくなりました。
1.まず、PSAを測定して癌でないことを否定しておく必要があります。
2.治療の対象は、夜間頻尿でよく寝られない、尿が我慢できない、排尿時に力む、時間がかかるなどの日常生活に支障がある方になります。
3.薬物治療は症状が比較的経度の方が対象となり、α1ブロッカーが第一選択で、過敏症状が強い方には抗コリン剤を併用します。
4.手術は症状が比較的高度の方が対象となり、経尿道的前立腺切除術(いわゆるTUR-P)を行います。
以上、簡単ですが、前立腺肥大症について概説いたしました。少しでも皆様方のお役に立てれば幸いです。
(神田医師会 (三楽病院) 平澤潔)