平成19年6月号「じんましん」
突然に痒みを感じ、思わず痒いところを掻くと、さらに痒くなりさらに不愉快。
とくに日没後や夜間に痒みがひどくなり、布団の中でイライラ掻き続けて寝不足になる。
朝起きて、病院に行ってみるとアラ不思議。おさまっている。
これがじんましん(蕁麻疹)の典型的な症状です。
なんか悪いものでも食べたかな?ひょっとして内臓に悪い病気があるのかな?
皆さんが心配になることを中心にお話します。
典型的なじんましんは、「蚊に刺されたように」腫れてきます。
蚊に刺された場合と違うのは互いに融合して「意味不明な地図」 見たいな様相になることです。
そして、掻いてしまうとその部分にじんましんが誘発され「ミミズ腫れ」が生じてきます。
腫れずに赤くなるだけの方もいます。
じんましんには原因が特定できるタイプと、いろいろな検査をしてみても原因不明な (医療の業界用語では突発性といいます。)タイプがあります。
皮膚科専門医の経験から申しますと、大部分が原因不明です。
大学病院の皮膚科外来でも内臓疾患やアレルギー性で 食物や薬剤が原因と判明する患者さんが見つかると、 医師は「めずらしいな。」と感じるくらいです。ちょっと意外と思われるでしょう。
現実に多い原因は、風邪やヘントウ炎、中耳炎などの炎症性疾患です。
じんましんでアレルギー性の原因がある場合は、医師でなくても判断できるものが多いのです。
食物や、サプリメント、健康食品、薬剤などによるじんましんは、 食事や内服から30分~1時間以内に必ずじんましん発作を生ます。
同じ原因物質を摂取してた場合は例外なくじんましんが出ます。 「昨日の夜に青魚を食べたら朝になって痒い。」の、ように時間が離れているものは原因ではないのです。
ですから、子供の場合はお母さんが気づきます。
大人の場合は本人が「どうもこれを食べると痒くなる。」 として気がつくことが多いのです。
サプリメントや健康食品、薬剤など単純な成分構成の場合は簡単です。
内服するたびに必ず痒くなりますから、判ります。ところが食事は少しヤヤコシイのです。
なぜなら、食事に含まれる成分が多いからです。
練習問題のように、考えてみてみましょう。
食事毎に食後すぐにじんましんが出て食物アレルギーが疑われる患者さんAさんの、食事内容です。
朝食・・目玉焼き、サバの塩焼き、納豆、豆腐とネギの味噌汁、白米。
昼食・・スパゲティ・カルボナーラ。
夕食・・エビフライ定食、ビール。
さて、この患者さんのじんましんの原因として何を疑うか?
推理してみてください。各食事に共通する要素は何でしょう?
参考回答・・まず卵。昼食のレシピはチーズと卵を使うし。
夕食のエビフライにはタルタルソース(マヨネーズ+玉葱+卵+ピクルス?)が添えられていたと想像します。 (医師は料理のレシピもある程度知ってないと務まりません。)
他に共通するものはないでしょうか?見落としてはいませんか?コショウ(胡椒)です。
あ!ズルイ。と、思いませんか。臨床現場ではこのように根掘り葉掘り追求します。
ですから、食べた物を患者さんが記憶していないとお手上げです。
さて、頻度が少なく稀なアレルギー性じんましんについて長々と書きました。
実は、アレルギー性のじんましんは恐ろしいのです。
症状が激しいと死に至る場合があるからです。
とくに、顔、とくに口のまわりに症状が強く吐き気や呼吸困難、意識を失うなどの症状が出てきたらかなり危険です。
すぐに救急車を呼んでください。いわゆるアナフィラキシーショックという状態です。
蜂刺されやペニシリンショックが有名ですが、 アレルギーは繰り返すたびに症状がひどくなります。
2回目や3回目はじんましんが痒い程度で済まされても 4回目にこのようなショックに発展して危険な状態になることがあります。
逆に、このような状態になった患者さんが救命されてから聞いてみると、 「以前から食事後に痒かった」という警告的な前例があることが多いのです。
また、すべてのアレルギーに共通する「今まで大丈夫だったのに」は、 危険なカン違いをもたらします。
好きで毎日のように食べているものが、ある日突然アレルギーの原因になる。
長年の親友に突然裏切られるような納得できない現象がアレルギーなのです。
じんましんが出る方は、なにか『共通するきっかけ』はないか?よく考えてみてください。
食事ばかりでなく、自動車工場などで特定の塗料を使った作業の直後だけ痒い。
そのような吸入した気体が原因の場合もあります。
原因が特定できためずらしい場合は、原因に出会わないように気をつけることが最良の治療です。
一方、じんましんの患者さんの大部分を占める特定の原因なく 不定期に生じるタイプでは抗アレルギー剤などの 内服で対症療法をしながら、自然におさまる時期を待ちます。
慢性じんましんといわれる何年も続くタイプもありますが、 症状が出そうなときに内服薬でコントロールしながら 自然に出なくなるのを待つです。
泥縄式に感じると思いますが、現在の医学では原因の判明しないじんましんを 医学的な方法で根治させて二度と出ないようにする治療法は確立していません。
だからこそ、慢性的に十年続いても「体質改善」に期待しないでください。
「体質改善」「中から直そう」「いま毒が出ている」「好転反応」などの 言葉は健康サギ師の共通する特徴です。捏造あるある大辞典!の納豆ダイエットより悪質です。
以上、じんましんに関しての医療現場の常識をお話しました。皆さんの参考になれば幸いです。
神田医師会 北原東一