平成18年8月号「しみ。本当にただのシミですか?」
肌のトラブルを表す一般的な言葉はいろいろあります。
肌荒れ、しっしん、かぶれ、じんましん、みずむし、イボ、うおのめ、などです。そのなかで要注意なのがシミ。シミでお悩みの方に知っていて欲しいのは、この「シミ」という言葉がクセモノである事実。
皆さんは、肌に見つけた黒~茶色の斑点をすべてシミと表現します。ところが、皮膚科的に診断するといろいろな疾患が含まれている。クセモノと言いたくなるゆえんです。
患者さんが「先生、私のこのシミ…」と言って診察に訪れたとします。実際に拝見すると、以下のような疾患が含まれます。肝斑、雀卵斑、日光性黒子、両側性真皮メラノサイトーシス、大田母斑、扁平母斑、色素性母斑、異所性蒙古班、炎症後色素沈着、脂漏性角化症、基底細胞癌、悪性黒色腫……等々。
ごめんなさい。医学用語ばかりで何がなんだかわかりませんよね。今読んでいただいて「そんなのわからないよ。」そう思った感情を大事にしてください。そうです。シミに関してはご自分でシミだと思っても、様々な疾患の可能性があるのです。当然、そのシミがなにかで治療法が異なりますし、治療しようとして弄(いじく)りまわすと濃くなるものもあります。
そして、最後の二つに注目してください。基底細胞癌と悪性黒色腫。悪性腫瘍ですから、正しく治療しないと命を失います。痛くも痒くもないので、ただのシミだと思ってシミとり化粧品などを塗りながら育ててしまうと悲惨です。
みなさんがシミと思っている色素班の中には、これだけ様々な状態があり、治療の緊急性もまったく違うものが含まれているのです。専門家である皮膚科専門医でさえ診ただけでは決断できず、切除して病理検査(皮膚生検といいます)で細胞を調べないとがんか否か判定できないものすらあります。それほど「シミと思われるもの」の診断や治療は難しいということをご案内したいのです。悪性黒色腫をただのシミと(医師が)誤診してレーザー照射したあと、数年後に転移してしまった例だってあるのですから。
そのシミが何か?専門家のところで正しく診断をしてもらうこと。前出したように、皮膚のがんである場合もあるのです。皮膚の黒いがんの危険シグナルとしては、シミやほくろだと思っていたものが、形がいびつだったり、急に大きくなったり、色が濃くなったり、出血をするようなケースがあります。大学病院の皮膚科や形成外科の中にはシミ外来のあるところもありますので、受診してみてください。
良性のシミの治療方法としては、ピーリング、レーザー照射、ハイドロキノン製剤などの塗布、特殊な内服薬などがあります。正しい診断に基づいて治療をすれば、良い効果を期待できるものもあります。ただし、良性のシミの治療は保険診療の範囲ではないことに注意して下さい。保険がきく範囲は、シミが良性か悪性かの診断と、そして不幸にして悪性な場合の治療です。
テレビで宣伝しているビタミンサプリメントなどの効果はどうでしょうか?みなさん興味しんしんではないですか? はっきり宣告します。期待できません。皮膚科は女性の医師が多い診療科ですが、マトモな女医さんは誰もビタミン剤なんかのんでいません。非常に示唆に富む事実ではないでしょうか。
神田医師会 広報部