平成17年12月 メタボリックシンドロームってなあに?
最近新聞やテレビでよく耳にする様になった この言葉。初めて聞くと意味不明ですが、実は誰もが簡単にかかってしまう、ちょっと恐い病気なのです。あなたは既に、メタボリックシンドロームにかかっていませんか?
家に有る裁縫箱の中からメジャーを取り出して、自分のウエストサイズを測ってみましょう。
男性で85cm以上、女性で90cm以上有れば、可能性がグーンと上がります(必須項目)。
これに該当する方は次の問に進んで下さい。
1.中性脂肪値が150以上、HDLコレステロールが40以下のいずれか、または両方
2.上の血圧が130以上、下の血圧が85以上のいずれか、または両方
3.空腹時の血糖で110以上
1.から3.の項目のうち、2個以上の該当が有れば、あなたは残念ながらメタボリックシンドロームの仲間入りです。
心筋梗塞や脳梗塞などの、血管が詰まってしまう心血管病にきわめてかかり易くなるからです。
二次項目1.から3.のうちのどれか一個でも有れば、それなりに危険そうなのは、何となく理解出来ると思います。それが複数合わされば、もっともっと危険になるのは当然とも言えます。
それぞれ一個一個の項目の乱れは軽いものであっても、束になってかかって来られると、とても恐い存在になります。毛利元就の3本の矢の例えの如きです。
何となくお分かりだと思いますが、実はウエストサイズを測っているのは、内臓脂肪の貯め込みをみているのです。
臍の周りのサイズが、男性で85cm以上、女性で90cm以上有ればかなりの確率で、臍の高さでおなかを横断した時の内臓脂肪面積が100平方cmを超えて貯まっています。これは現在の日本人の体格を考えても、どうみても貯め込み過ぎと言えます。
内臓の周りに貯まっている脂肪は(実は脂肪細胞なのですが)、皮下脂肪と違ってとんでもないいたずらをするのです。
最近の研究で、内臓脂肪から血圧や中性脂肪や血糖値に影響を与える悪玉物質や善玉物質が出ている事が分かってきました。内臓脂肪を貯め込み過ぎると、そこから悪玉物質ばかりが出て、逆に善玉物質の出方が悪くなります。そのために高血圧や血中脂質の乱れや高血糖が、同時進行的に起こってくるのです。
つまりメタボリックシンドロームでは、高血圧や高脂血症や高血糖が偶然に重なってしまった訳ではなく、全てが内臓脂肪を基盤に起こっているので、むしろ当然の如く並立してしまうのです。
その結果、危険度が相加的相乗的に増加して、心筋梗塞などが起こりやすくなるのです。
必ずしもそうではありません。例えば力士はあんなに太っていても、実は内臓脂肪は少なく、少なくとも現役中は高血圧や高脂血症や糖尿病が多い訳ではありません。つまり皮下脂肪はあまり悪い振る舞いはしないのです。同じ肥満であっても、どこに脂肪が貯まっているかが大事なのです。むしろ一見太って見えなくても、おなかだけが飛び出している体型の人、いわゆる「かくれ肥満」の人もメタボリックシンドロームになっている可能性が大きいので注意が必要です。
総コレステロールのかなりの部分を占めているのは、悪玉コレステロールと言われているLDLコレステロールです。LDLコレステロールは酸化変性を受けて血管の壁にこびりついて、直接に動脈硬化の原因となるため、これ単独でも大変に危険な存在です。有る意味では、メタボリックシンドローム以上に危険度が大きいとも言えます。またLDLコレステロールは、内臓脂肪とは無関係に高い人も多く、メタボリックシンドロームとは全く異なる動き方をします。つまり、メタボリックシンドロームの人に、LDLコレステロールが高いという全く別の大きな危険が重なってしまう事も有りうる訳です。その場合の危険度は、飛躍的に高くなる事は言うまでも有りません。
HDLコレステロールは善玉コレステロールとも呼ばれ、血管の壁にこびりついた悪玉のLDLコレステロールを抜き取って肝臓に運んで処理する経路(コレステロールの逆転送経路と言います)の主役を演じるものです。これが40以上は無いと、この経路が充分に働かず、動脈硬化が進み易くなります。また、HDLコレステロールは、中性脂肪が分解する過程で出来てくるとも言われており、中性脂肪が分解しないで貯まっている状態では分解産物のHDLコレステロールは当然低くなります。つまり、中性脂肪値とHDLコレステロール値はシーソーの様な逆相関の関係になる訳です。メタボリックシンドロームで中性脂肪値が上がり、HDLコレステロールが下がるのはそういう理由によるのです。
放っておくと大変危険です。
原因は過食と運動不足です。
三度の食事は腹八分目、間食やアルコールは徹底的に少なくするなどのダイエットを心がけます。それとともに、一日20分以上の早足歩きなどの運動療法が必要です。この様な生活改善でウエストサイズが細くなってくれば、危険度が下がってきていると考えられます。しかし具体的にどの様に生活改善に取り組んだら効率的なのかは、ケースバイケースですし、場合によっては薬の力を借りた方がうまくいくケースも有ります。
メタボリックシンドロームの方は是非一度、最寄りの医師にご相談下さい。医師はメジャーを持って皆様をお迎えし、その方に合ったテーラーメードの指導や治療をしてくれるはずです。
(神田医師会 安藤俊裕)