平成17年3月 ステロイド(副腎皮質ホルモン)外用材の本当の怖さ
一般の方々の、ステロイドの塗り薬に対する恐怖心は、最近うすれているようです。
常識的に考えれば、現在の日本国内で厚生労働省が使用を許可して数十年の使用実績がある薬剤は、毒みたいに危険なものである筈がありません。
そうですね。なぜ恐いと思われるようになってしまたのでしょうか?
意外に思われるでしょうが、原因はステロイドが「非常に効く薬」だったからなのです。
そうです。良い薬です。
でも良い薬が「塗り薬」である場合は間違った使い方をしたくなるのが人情です。お父さんが処方されたカゼ薬を子供に飲ませますか? そんなヒトいないでしょう。塗り薬の場合はどうでしょう。子供に処方された塗り薬をお母さんが自分に塗ってしまうことが、起こり得るのです。「これ良く効いたから私も塗ってみよう!」危険です。同じ子供さんでも、「夏休みにもらったこの塗り薬。よく効いたから正月にも使ってみよう!」これも間違いです。
良い薬=良く効く薬=強力な作用をもつ薬=使い方を誤ると不利益となる可能性がある薬なのです。
どのような皮膚疾患にどのような期間使用すれば妥当なのか。専門家の指導で使うべきものなのです。
命に別状はないでしょう。
しかし、簡単に大トラブルになる可能性の強い場所はあります。
顔です。
顔、耳、頭などは外部から受けた刺激に忠実に反応する鋭敏な場所なのです。ステロイド外用剤を顔の正常皮膚に1日に1回塗り続けた場合、一週間ぐらいで連用による「薬癖」がついてしまうことがあります。薬物中毒のように、「薬が切れると荒れ狂う」状態になってしまう可能性があるのです。ステロイドが恐いという風評はこの中毒状態になってしまった不幸な方の悲惨な経験を聞いてはじまったようです。
よく効く薬だから、起こりえるのです。
ちょっとした肌荒れにやカサつきにも素晴らしい改善作用があります。気楽に使って、この効果を発見してしまうと大変です。女性にとっては「超スーパー美容液!」みたいに思えてしまいます。だから、「効く塗り薬」は逆に危険なのです。実験しないでくださいね。
「たかが塗り薬」も医師の指示通りに使って下さい。とくに、余ってしまった場合に他の場所や、家族や、友人に使わせないでください。飲み薬では常識であることを塗り薬でも守ってください。
その発想が間違いです。
医療機関で医師が診察し、そこに使用することを前提に処方された医療用の薬を転用・流用しようとする発想は危険です。それが塗り薬でも。
これも大ウソです。
皮膚科専門医の経験からいえば、弱いステロイドや、他の薬と混ぜて薄めたステロイドの方がトラブルの原因になることが多いのです。「弱い=安全」は成立しません。弱くてもステロイドはステロイド。副作用は同じです。むしろ弱いために症状が収まらないで、だらだらと使い続ける方がハイリスクです。
充分強力な作用を持つ薬を選び、限定的な短期間で終了する。そのための指導をきっちりとする。それが正しい使い方なのです。
以上、一般の方が漠然と恐怖心を持つステロイドの塗り薬に対するお話をいたしました。大事なことは、
1.常識的に考えて毒薬のような危険性があればすでに使用禁止になっているはず。正しく使えば利点が有るものだから現在でも使用され続けていることを理解し、必要以上に恐れるのは損。
2.医療用の薬である以上、強力な作用があるのだから指示通りに使うこと。
3.塗り薬でもほかの場所や家族などに転用・流用しないこと。
4.効く薬だからこそ間違った安易な使用をしやすいことに注意。
5.顔=女性が化粧をする範囲は、特に慎重に期間を限定すること。
6.弱いステロイド=安全は誤解である。
(神田医師会 北原東一)