平成16年12月号 この冬の呼吸器感染症の傾向と対策
今年もはや十二月、残り少なくなりまた寒い冬がやって来ました。
冬といえばかぜの季節です。
かぜは多くの原因で起こる急性の呼吸器の病気を総称した症候群で、大部分はいろいろなウイルスで起こります。かぜ症候群は呼吸器のうちのどの部分が強く冒されるか、また全身症状の有無とその程度によっていくつかの型に分けることが出来ます。その中で多いのは、普通感冒、咽頭炎、インフルエンザです。
普通感冒は、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりなどの鼻腔粘膜の急性炎症を主とします。
ライノウイルス、コロナウイルスなどのウイルス感染によって1~3日の潜伏期の後、徐々に症状が出現します。多くは熱はありませんが、時に37.5度程度の発熱があります。
およそ1週間の経過で治りますが、こじらせると中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎を合併することがあります。
咽頭炎はのどの痛みなど咽頭粘膜の炎症(発赤、腫脹)が主体で、38度程度の発熱を認めることもあります。アデノウイルス、細菌感染によって起こります。
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる呼吸器の急性感染で潜伏期は1~5日(平均3日)、発病は急激で発熱(38度~39度あるいはそれ以上)、頭痛、関節痛、全身倦怠などの全身症状で始まり、ついで鼻みず、のどの痛み、せきなどの呼吸器症状や腹痛、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状が出現することもあります。
インフルエンザウイルスにはA、B、Cの3型がありますが、流行を起こして実際問題になるのはA、Bの2型です。さらにA型はHおよびNの抗原構造から5つの亜型が知られており、毎年流行しそうな型をブレンドしてワクチンを作っています。今シーズンはA/ソ連型(H1N1)、A/香港型(H3N2)、B/上海をブレンドしたものです。インフルエンザウイルスの遺伝子は、そのすべてがカモのウイルスに起源があり、また越冬のため北方より飛来する渡り鳥が運んで来ると言われています。
皆さん、もうインフルエンザワクチンの予防接種はお済ですか?
ワクチンの接種を行うことでインフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し、健康被害を低く抑えることが期待できます。有効率は80%と言われています。
特に高齢者や何らかの基礎疾患(慢性気管支炎、排気腫、COPD、糖尿病など)をお持ちの方は重症化しやすいので、かかりつけの医師と相談のうえ必ずお受けください。ワクチンはその効果が現れるまで2週間ほどかかり、約5ヶ月間効果が持続すると言われており、インフルエンザの流行が12月下旬から3月上旬であることから、12月上旬までに接種を済まされることをお勧めします。
インフルエンザの治療薬は、ここ数年で様々な薬剤が利用可能となりましたが、これらはいずれも発症後48時間以内に服用しないと効果が少ないとされており、早めの医療機関の受診が望まれます。また、強力な解熱鎮痛薬の使用は血管内皮細胞障害を修復する酵素の働きを抑制するため有意に死亡率を高めると言われ使用が抑えられています。
インフルエンザをはじめ、かぜはその病気にかかった人の咳、くしゃみ、つばなどの飛沫と共に放出されたウイルスを、鼻腔や口腔、気管など気道に吸入することによって感染します。これを飛沫感染といいます。
飛沫感染を防ぐには、まずかぜに罹って、くしゃみや咳をしている方は必ずマスクを着用して下さい。あなたのくしゃみや咳で大量のウイルスが放出、飛散され周囲の人にうつして健康被害を与えてしまいます。
またマスクを着用していると鼻腔、口腔の保温、保湿に有効ですのでかぜを早く治すことが出来て一石二鳥です。食事以外24時間(睡眠時も含めて)の着用が勧められています。
もちろん、マスクはかぜの予防に有効で、最近の不織布を用いたマスクはバリア性に優れ、ウイルスや細菌を含んだ飛沫の侵入をしっかり防ぎます。
ウイルスは寒冷と乾燥を好みますので外出にはマスク、ご自宅でも保温(20~22度)、保湿(50~60%)にご注意下さい。加湿器や空気清浄機も有効です。
うがいは帰宅時だけでなく起床時、食前、就寝前など1日4~5回行いましょう。
口の中(クチュクチュ)と喉の奥(ガラガラ)両方行ってください。
手洗いは手のひらだけでなく、手の甲、指の間、手首までしっかり洗ってください。外出時には露出している部分は雑踏などでウイルスに暴露されていますので、帰宅時には洗顔もお勧めします。
疲労、ストレス、睡眠不足、栄養不良は免疫防御機能の低下を招きます。改善しておきましょう。また喫煙は非喫煙者に比べ30倍死亡率が高くなると言われています。禁煙をお勧めします。これら予防法はSARSなど新興ウイルス呼吸器感染症にも共通ですので冬の生活習慣にお役立てください。しっかりかぜを予防して快適な冬をお過ごし下さい。
(神田医師会 林 永信)