平成16年9月号 冬のカサカサかゆい肌 その対策は
毎年10月中旬から11月くらいになると、すねや腰のあたり、わき腹などの皮膚がカサカサになりかゆくなって困る方はいませんか?女性の場合は腕に生じる場合も多いようです。
それが皮膚科の診断名(業界用語)では皮脂欠乏性湿疹というものです。ほとんどの方は、次の年の春4月下旬まで続いて自然におさまります。
日本の清潔好きな生活習慣です。え?清潔がいけないの!そう思われるかもしれませんね。最近のデジタル文化で常に無視される「程度問題」あるいは「ちょうど良い按配」が大事なのです。どのようなことなのかお話しましょう。
自動車のボディーにワックスで保護する膜を作るように、皮膚というものは、脂質(単純にあぶらと考えてください)の膜で覆われています。
清潔好きな日本人は「垢をスリ落としてさっぱりしたい」との習慣も加わってこの皮膚の保護膜を洗い落としすぎるのです。
洗車好きな人が、毎日一生懸命に愛車を磨き上げようとしたのにやりすぎてしまい、ボディーの塗装が痛んでザラザラになってしまったような状態なのです。それが、冬のカサカサかゆい肌の原因です。
入浴後にスキンクリームなどでたっぷりと保湿して…それは間違いです。
そう考えたら、製薬メーカーや悪徳化粧品会社の思う壺。かれらの売り上げ成績に際限なく協力することになります。洗い過ぎてから何かを塗って保湿するのは正解ではありません。
真の正解は「フロ上がりに何も塗らないでもカサカサにならない程度に洗浄法を改善する。」ことです。
今この文章を読んでいるあなた。あなたのおじいさまやおばあさまは、入浴後に何かを塗っていましたか?日本人の生活の知恵として、年齢と季節にあわせて洗い方の程度を変えて対応していたはずなのです。
洗い方の調節。実は結構難しいものです。
1度出来上がった生活の習慣は容易に変更できません。今日のこの話を頭脳で理解しても手や腕は習慣どおりに動き、洗いすぎてしまいます。あかすりタオルに石鹸をつけ、バリバリ擦ってスッキリ。体重まで軽くなったようなフロ上がりの爽快感も忘れられないものです。
意識としては過剰に洗っているつもりはないのに結果としてカサカサになる場合もあります。石鹸や洗浄剤=脱脂力のある洗剤で接触している時間が長い、時間のかけすぎ。または、熱い湯に長く浸かる。2度洗いをしている。など、結果として皮膚を保護する脂の膜を失い過ぎる原因はヒトによりさまざまです。問題は結果です。
留学経験のある医師に聞くとアメリカ人やドイツ人などの欧米人は脇の下や股などは石鹸でやや丁寧に洗うものの、その他の部分はシャワーで流すだけ、または石鹸をつかっても軽くなでるだけの人が多いようです。
日本人得意の石鹸タオルで全身くまなく洗っている姿を見た彼らは、「1年ぶりのシャワーか?」などと驚いたようです。この欧米人の習慣が解決の参考になります。
皮膚を保護する脂質の生産量は20歳前後をピークに誰でも年々減少します。
皮脂欠乏性湿疹が別名老人性乾皮症といわれるのもそのためです。日本人の潔癖嗜好は近年さらに亢進したようで女性では20代後半、男性では30代前半で発症する方がふえました。
実態はすでにお話したとおりで洗い方と保護膜再生のミスマッチなのです。皮膚の脂質の膜が防御因子の盾。入浴時の洗浄が攻撃因子の矛(ほこ)です。出来上がった洗浄習慣がある年齢から保護膜再生力を超えてしまった年、盾が矛を貫いたときに冬のカサカサかゆい肌が発生するのです。
カサカサにならないように生活習慣を改善することが根本的な解決です。
具体的には、タオルできっちり洗わなくても、石鹸を手で軽く撫でるだけで充分。皮膚の健康のために垢をスリ落とす発想は不要である。
欧米の生活習慣に学んでみよう。そんな発想の切り替えが必要なのです。
それでも、生活習慣の改善に成功するまでに年単位で時間がかかる方が多いようです。
うまくいかないことにはじめて保湿剤などの外用薬の使用を考えましょう。
でも、その前に洗い方、入浴習慣を見直してみて下さい。
(神田医師会 北原東一)