平成14年12月号 蛋白尿と血尿は危険信号
蛋白尿や血尿は何も症状が無くても重大な病気が隠れている時があります。
尿検査で異常の出た人は、後からシマッタと思わないように、一度専門医の意見を聞いてみましょう。
尿は背中の右と左にあるソラマメのような形をした腎臓という臓器で作られます。
人間の体を作っている細胞は、血液の中に浮かんだような状態になっていますが、血液の成分が一定になっていないとうまく働きません。腎臓はこの血液の成分を一定の範囲にコントロールする役目をしています。尿の中には色々な不要になった老廃物、塩分、水分が捨てられます。しかし蛋白は体には必要なものですから健康な人の尿には殆ど出てきません。蛋白尿は尿を作る過程のどこかに異常があって漏れ出てくる状態なのです。
正常では、1日に排泄される蛋白は150mg以下です。
健康診断などで、尿蛋白(+)とか(2+)ですから気をつけて下さいといわれることがあります。では(+)というとどのくらいの蛋白が出ていることになるでしょう。
ちなみに(+-)では10~20、(+)は30,(2+)は100、(3+)は300、(4+)は1000mg/dlを意味しています。3倍ずつ濃度が濃くなると覚えておくと簡単です。(2+)だから大丈夫と思っていても、量としては正常の10倍、(4+)では何と100倍の蛋白が出ていることになります。
尿は腎臓にある約200万個もある糸球体という所を血液が通る時、濾し出されてできます。
一度濾し出されてから必要な物はもう一度吸収されたり、色々に調整されてから本当の尿になるわけです。でも尿のもともとの材料は血液ですから、血液中にある種の蛋白が過剰になると尿に蛋白が出てくる時があります。
また血液を濾し出す腎臓の糸球体に異常があると尿中に蛋白が出ます。糸球体は大丈夫なのに、糸球体より先の尿細管という管に異常があって蛋白が出る場合もあります。異常の部位によって出る蛋白が微妙に違いますから、詳しく調べてみるとどこに異常があるかある程度見当がつきます。
一番代表的なものは慢性糸球体腎炎といって、蛋白尿、血尿以外は全く無症状で長い間経過し、気が付いた時には腎機能が殆どない状態になっていることがあります。腎臓が働かなくなると透析療法か腎移植以外には命を助けることはできません。蛋白排泄量がすごく多いネフローゼ症候群も厄介な病気です。糖尿病や高血圧などの生活慣習病も腎臓をいため蛋白尿が出ます。
でも蛋白尿が出るからといってすべての人がこのような恐ろしい病気とは限りません。無症候性蛋白尿といって尿蛋白は陽性でも調べてみるとどこもおかしくない人もいるのです。こんな人が健康な青年でも1%ぐらいいるといわれています。
また起立性蛋白尿といって臥床時には蛋白が出ないのに、体を立てにすると(起立時)には蛋白尿の認められる人もいます。激しい運動をした後や、高い熱を出した後などには蛋白尿が認められることもあります。このような蛋白尿は一時的なもので心配ない場合もあります。
でも、とにかく(+)と出たら正常以上、(++)の場合には一日約1g以上の蛋白が出ている可能性があり、専門医に相談をして原因をはっきりさせた方が良いと思います。
血尿とは何らかの原因で尿に赤血球が混じった状態をいいます。
目で見て明らかに血液が混ざったものを肉眼的血尿と言い、顕微鏡で見て初めてわかるような極少量の血液が混じっているようなものを顕微鏡的血尿と言います。
肉眼的血尿の場合、尿1リットルに対して1ml以上の血液が混じるとコカコーラのような色になったり、ワインレッドのような色になったりします。
血尿は尿ができてくる通り道のどこかで出血していることを意味しています。どういう原因でこのようなことが起こるか確かめたい所ですが、体の中をそう簡単に見るわけにもいきません。先ずどのような時に血尿が出るのか、四六時中出るのか、間歇性か?朝起きたときの尿はどうか?体位を変えることにより変化するか?蛋白も陽性かなどが問題になります。
このようなことを調べるために、何度も尿検査をしながら経過を見るということになります。
内科的な病気で血尿を呈する代表的なものは急性及び慢性の糸球体腎炎です。
急性糸球体腎炎は風邪の後、発生することがあり、肉眼的血尿(目で見て明らかに血が混じっていると分かるもの)になることが多く、尿が紅茶のような色になります。血圧が高くなったり、むくみが出たり症状は派手ですが、比較的治りやすい病気です。同じ糸球体の病気でも、慢性糸球体腎炎では極くわずかの血液が混じっているのみで、肉眼的には血尿とわかりません。このようなものを顕微鏡的血尿といいます。
普通は全く無症状で蛋白尿を伴う場合が多く、静かに進行してゆき気が付いた時にはどうにもならないことが多くて、たちが悪いといえます。最近は慢性糸球体腎炎の中でもIgA腎症という病気が注目されています。
年少者では遺伝性の腎炎の可能性もあります。
血尿と蛋白尿が同時に認められる場合は、同じところから出ていることが多く、特に腎臓の糸球体から出るものは注意が必要です。
血尿だけの場合は、糸球体以外の病気も可能性もあります。これは泌尿器科の病気ですが尿路結石、尿道の奇形、まれには腎臓や膀胱の癌といった可能性もあります。
また腎動脈が他の血管に押されて鬱血を起こすことによって血尿が出るということもあり、一口に血尿といっても命に関わることから、放置しておいても良いものまで色々あります。症状がなくても是非専門のお医者さんに見てもらいましょう。
(神田医師会 小倉明子)