平成14年6月号 大きないびきは注意信号
大きないびきをかいて熟睡している、と思ったら大間違い。
ひどいいびきは、睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、治療が必要な場合があります。専門の医師に相談してみましょう。
いびきは睡眠中の異常呼吸音と定義されています。
普通、鼻からノドの間で発生する音を指しますが、音源についての決まりはありません。
日中はなんの症状も示さないことが多いため、最近まで治療意識が希薄でした。
一方、睡眠時無呼吸症候群に対する関心が、ここ10年ほどの間に高まってきました。
いびきは睡眠時無呼吸症候群の前段階であると認識されてきているので、今後は皆さんにもいびきに関心を持っていただきたいと思います。
いびきは睡眠中に鼻・ノドの空間が狭くなり、そこを通過する空気の流れが、異常な音を発生するものです。
眠ると全身の筋肉が弛緩します。人は睡眠時、仰向けになることが多いので、ノドを構成する組織が、重力の影響を受けやすく、下根(ノドの奥、ベロの付け根)や軟口蓋(ノドちんこを含む上顎の軟らかい部分)が沈下します。
このため、舌根部では侠窄型のいびき、軟口蓋では振動型のいびきを生じます。
誰でもがいびきをかく訳ではなく、いびきをかく人には、何らかの原因があるものと考えられます。その原因は、全身的なものと局所的なものに分けられます。
全身的なものとしては、まず肥満が挙げられます。首の脂肪が多いので、横になると舌根の落ち込みが強く、ノドが狭くなってしまいます。全身の筋緊張低下をもたらす慢性的運動不足、過度の飲酒、ある種の薬物使用、そして疲労でも引き起こされます。
その他、むくみや筋肉のゆるみなどを生じる病気で起こっていることもあります。
局所的な原因としては、まず鼻づまりを起こす病気があります。アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻中隔湾曲症やアデノイド(鼻とノドの間のリンパ組織)肥大などに注意が必要です。
次にノドの病気を考えます。
これはノドの奥の空間を狭くするもので、口蓋垂(いわゆるノドちんこ)が長すぎるもの、扁桃腺肥大、あごの骨の発育不全などが拳げられます。
最近では、いびきが睡眠時無呼吸症候群の一つ、「OSAS閉塞型睡眠時無呼吸症候群」の前段階であるとの認識が高まっています。
大きないびきや、呼吸のリズムが不規則なもの、数秒間呼吸が止まってしまうものは病的です。OSASでは、昼間の強い眠気、頭痛、不機嫌、目覚めの悪さ、集中力の低下などが自覚されます。
また、呼吸機能が低下することで、心臓、内分泌系、血管系の臓器に負担がかかり、生命にかかわる悪影響すら引き起こされることがあります。
睡眠時無呼吸症候群の診断基準は「七時間の睡眠中に10秒以上続く無呼吸が30回以上みられるもの、もしくは一時間あたり五回以上認められる場合」です。
無呼吸があって、眠気、頭痛など前述の自覚症状があれば、医師に相談した方がよいでしょう。診察の結果、必要な場合は、特殊なモニターを装着するポリソムノグラフィーという睡眠中の検査を行います。通常入院して行う検査ですが、最近では家庭に持ち帰って測定できる簡易型の機械もあります。
いびきは睡眠中に鼻・ノドの空間が狭くなるために生じる訳ですから、この狭くなる原因を取り除けばよいのです。それには、自分でできる工夫と、医師に相談すべき方法があります。
いびきのひどい人は、アルコールの摂取を控えめにしてください。
睡眠時、仰向けに寝るといびきをかきやすいので、横向きに寝る習慣をつけましょう。具体的には、寝巻きの背中にテニスボールなどを縫いつけたり、敷き布団の下に座布団を入れて、片側に段差をつけます。
尾翼に張り付けて鼻腔を広げるバネ状のテープも、効果があると報告されています。
鼻は通っているのに、睡眠時の開口が癖になっているときは、口呼吸の癖を直します。これには、上下の唇を一本の粘着テープで軽く固定して、口呼吸を鼻呼吸へ矯正する方法がありますが、口唇炎や皮膚のタダレを起こしたり、呼吸が苦しくなることがあるので、医師の指導を受けてから実行してください。
特殊なマウスピースを就寝時に使用したり、睡眠時無呼吸があるとき、睡眠中の呼吸を補助する機械を装着する方法もあり、自宅で使用できます。
睡眠薬や鎮静剤を使用していていびきがひどい人は、主治医に相談しましょう。
原因が全身的なもの、得に肥満や慢性運動不足では、生活習慣病を防ぐ意味でも、食事療法や運動療法などの生活指導を、医師から受けてください。適度な運動は減量に至らなくても、睡眠中における呼吸補助筋の緊張低下を防ぎ、いびきを軽減すると言われています。
鼻やノドの病気が原因の場合は、その病気を治療しますが、場合によっては手術が必要です。
小児で多いのは「アデノイド切除術」「口蓋扁桃摘出術」です。鼻呼吸ができなかったり、高いいびきをかく、呼吸が途中で止まる場合があるときなどは、この手術の適応になる事があります。
成人では、腫れている鼻粘膜の一部を切除したり、鼻のまがりを治して、鼻腔の通りをよくする「鼻内形態矯正手術」やノドの余分な粘膜をとり除き、ノドの空間を広くする「咽頭形成術」「口蓋垂軟口蓋咽頭形成術」「喉頭蓋手術」などがあります。
大きないびきは熟睡の証拠ではなく、むしろ注意信号であることがお分かりいただけたかと思います。ひどいいびきは治療が必要です。専門の医師の診察を受けてみましょう。
(神田医師会 丸山 毅)