平成14年3月号 アトピー性皮膚炎は恐くない
アトピー性皮膚炎に対して恐怖感を持っている方が多いようです。
さらに、その治療に関して、もっと大きな恐怖を感じている方もいます。アトピー性皮膚炎の治療について、皮膚科医から見た考えかたをお話します。
痒い湿疹が、体のいろいろな場所に、繰り返して出現してくる状態です。 軽症な状態から重症な状態まで、様々な程度がありますが、共通しているのは、良くなったり悪くなったりしながら、長期間皮膚のトラブルに悩まされることです。
典型的な場合は、赤ちゃんのときから、カサカサと乾燥した皮膚で痒みに悩まされ、小学生になっても、時々あるいは常に、皮膚が赤くなって痒くなる湿疹に悩まされます。人によっては、大人になってから、突然症状が出る場合もあります。
もちろん、発見の遅れたガンなどの病気とは違って、命を失うことはありません。
しかし、対処法が不適切で重症になると、非常につらい痒みに悩まされます。若い時代に症状が強い方が多く、治療がうまくいかないと、外見上のコンプレックスも伴って、人生を楽しく過ごせない不幸な精神状態に、追い込まれやすいものなのです。
そんなことはありません。それどころか、もともと病気ではないとさえ言えるのです。
病院では、健康保険を適用して薬を処方されますが、病気と考えるより「湿疹が出来やすい性質」と考えてください。
これは非常に大事なことですが、痒くてカサカサとした湿疹が出来たときに、「いやらしい病気が出てきた!」と考えると、上手に対処できないのです。
では、どのように考えれば、うまくいくのでしょうか?
皮膚科的なアトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能(外敵を体内に侵入させない防御力)の障害と解釈されています。
外界から受ける様々な刺激を、体内に入れないように、バリアとして働いているのが皮膚の役目です。病原体や有害な物質を、体内に侵入させないように頑張っているのです。
でも、耐久力には限界があります。普通のヒトよりも少しだけ耐久力の限界が低いのが、アトピー性皮膚炎だと考えて下さい。一生懸命働いているのに、負担が限界を超えてしまうと、痒い湿疹になってしまう、そんな性質なのです。
だから、助けてあげてください。援軍を送って、外敵に負けないように助けてあげるのが、正しい対処法なのです。
頑張っているのに、一歩及ばず負けてしまう皮膚のバリア機能を助けてあげるのが、スキンケアです。皮膚科的には、軟膏療法が大切です。
正しいスキンケアと軟膏療法の方法を指導するのが、医師の役目です。信頼できる皮膚科専門医に教わってください。
日によって調子が違う皮膚の状態を、ご自分で正しく評価して、ひどくならないような洗浄法や軟膏の塗り方と、そのタイミングが正しく判断できるようになる練習が大切です。
全身が湿疹になって、硬直し、入院するような重症な方でも、上手な軟膏療法を会得すれば、カサついた部分にワセリンなどの軟膏基剤を塗って手入れするだけで、病院に通う必要がなくなるようになります。こうなれば、アトピー性皮膚炎は克服されたと言えます。
皮膚科に通うのは、湿疹がひどくならないような対処の仕方を習うためなのです。カルチャースクールで習い事をする感じです。医師はインストラクターの役目です。治すために特別な薬をもらいにいく病気とは、少しニュアンスが違います。
病気ではないと記した意味は、ここにあるのです。
一部の悪徳業者が主張するような「ステロイドを一度でも使うと廃人になる」などという考えは、全くのウソです。
ステロイド外用剤(塗り薬)の落とし穴は、非常によく効くために、「とりあえずステロイドを塗れば何とかしのげる」ことで、本来必要な正しいスキンケアをおろそかにしてしまう傾向があることです。
ステロイドは出来るだけ少量にとどめたいと考える方が増えて、我々皮膚科医は指導しやすくなったのは事実です。
詳しくは『アトピービジネス私論/先端医学社・竹原和彦著(2300円+税)』を一読されることをお勧めします。
アトピー性皮膚炎患者を標的にして、営利目的に商売をする業者の暗躍と、ステロイドに対する恐怖心が形成された背景を、わかりやすく書いてあります。同時に、アトピー性皮膚炎は、必要以上に恐れて狼狽する必要のない状態であることも解説してあり、続編も出版されております。
<体質改善!><なかから治そう!>という言葉、どこかで見たことがありませんか?アトピー性皮膚病に限らず、病気に悩む人にお金を出させるために、使われる言葉です。
<今、毒が出ている!><好転反応!>なども、症状悪化の言い訳です。健康や病気に関して、これらの言葉が出てきたら、要注意です。
10年位前、アトピー性皮膚炎は、全て食物アレルギーが原因であるかのように報道されて、アトピー性皮膚炎の子を持つ母親は半狂乱になって、低アレルギー食品を探しに奔走した時代がありました。
食物アレルギーによる皮膚炎は、大学病院の皮膚科外来でも、非常にまれなのです。特定の食物を食べると必ず痒くなる方以外は、正しいスキンケアの習得に集中して下さい。
以上、皮膚科的な立場から、アトピー性皮膚炎についての考え方を述べました。
皆さんにとって、よいインストラクターが見つかるように祈っています。
(神田医師会 北原東一)