区民の皆様への医療情報

平成12年10月号 ワクチン注射を受けましょう

インフルエンザに備えて

今年もインフルエンザの季節が近づいてきました。
インフルエンザの予防にはワクチン注射がとても効果があります。
備えあれば憂いなし。積極的にワクチン注射を受けましょう。

インフルエンザとは?

インフルエンザは、いわゆる『風邪』とは違います。
『風邪』は種々なウイルスによって起こる『のどの周囲』の感染の総称です。
インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染によって起こり、発熱、のどの痛み、咳、頭痛、悪寒、筋肉痛を起こします。軽症の場合は風邪と区別がつきません。
しかし、一般にインフルエンザの症状は重く、特に高齢者、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、糖尿病などに罹っている人の場合には重症になり、肺炎などの合併症を起こして、死亡することがあります。大流行の場合には、多くの犠牲者がでます。

インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型の3型あります。
このうち大きな流行を起こすのは、A型とB型です。ウイルスの遺伝子はしばしば突然変異を起こします。そのため同じA型、B型といっても、毎年少しずつタイプの違うウイルスが発生します。その結果、毎年流行を起こし、ときに大流行になります。

インフルエンザウイルスは、感染した人の咳などで空気中に飛び散ります。そのウイルスを鼻や口から吸いこむことによって感染します。
感染すると潜伏期間が1日から5日あり、その後突然の発熱、風邪症状、全身の倦怠感、筋肉痛が出現します。ふつうは2日から3日で回復しますが、重症になって入院する人もいます。特に高齢者の方では肺炎を起こして死亡の原因にもなります。また小児では脳炎の報告もあります。

インフルエンザに罹ってしまったら、抗ウイルス薬(ウイルスを殺す薬)を発病早期に使用すると症状が軽症ですみます。アマンタジンとザナミビルが認可されています。
アマンタジンは保険がききますが、A型のみに有効です。ザナミビルがA型、B型共に有効ですが、保険がききません(2000年8月現在)。やはり、インフルエンザは罹ってから治療するよりも、ワクチンによる予防が大切です。

効果的なワクチン注射

インフルエンザワクチンは、世界保健機構(WHO)が毎年その年の流行株を予想し、それにもとづいて各国のワクチン生産者が株を決めます。
ワクチンは不活化(注射しても感染しない)されており、A型2種類、B型1種類が混合されています。2000年~2001年の冬は、Aニューカレドニア株とAパナマ株、B型の山梨株を使用しているそうです。

インフルエンザワクチンは10月中旬に出荷されます。65歳以上の方、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、糖尿病に罹っている方は、是非ワクチン注射を受けることをおすすめします。またこれらの人々に接する機会が多く、インフルエンザをうつしてしまう危険のある人たち、つまり、医療関係者や保健施設の職員も注射が必要です。その他重要な職務にある人、とにかくインフルエンザに罹りたくない人、仕事ができなくなると困る人も注射するとよいでしょう。

ワクチンの効果は注射後1~2週間で出てきます。効果はひと冬ですので、毎年受けなければなりません。ワクチンの注射は1シーズン原則として1回です。ただし、9歳未満の子供で、過去に注射してない人は、4週間の間隔をあけて2回注射します。
原則2回注射というこれまでの日本のやり方は、世界の標準とずれているので、いずれ訂正されるでしょう。

ワクチンの副作用として重要なのは過敏反応です。
生命が危険になるほどのアレルギー反応(急激に血圧が低下するショック症状)はきわめてまれですが、起こりうることです。ショック症状は注射後数分以内に起こります。卵を食べるとひどいアレルギー症状が起こる人は注射を避けた方が安全でしょう。
その他軽度の副作用としては、注射した部位の痛み、発熱がありますが、これらは1~2日で消失します。またインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、注射によってインフルエンザに罹ることはありませんが、ワクチンをする日の体調が非常に悪ければ注射を延期してください。体温は37.5℃までなら問題ないとされています。
なにか不安があれば、医師に相談して説明を受けることが重要です。

ワクチン注射の推進を

昨年はインフルエンザワクチンの不足が社会問題になりましたが、今年の冬は十分な供給があると予想されます。ワクチンを希望される方の全員が注射を受けていただけると思います。 またインフルエンザワクチンは、インフルエンザの予防のためのワクチンであって、普通の風邪の予防はしないことを強調しておきます。

高齢者、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、糖尿病に罹っている方は、インフルエンザワクチンばかりでなく、肺炎球菌ワクチンもおすすめします。これは肺炎球菌という肺炎の原因でもっとも一般的な細菌に対するワクチンです。肺炎になると死亡する危険のある人々を、重症の肺炎から守るための重要な治療法です。

日本では、ワクチンはなにか悪いもの、恐ろしいもの、あるいは無効なものというマイナスのイメージが植えつけられています。米国では、ワクチンを注射して国民を病気から守ろうとする明確な政策があり、啓蒙活動も活発です。これまで65歳以上だったインフルエンザワクチンの注射推進強化対象が、今年から55歳以上に引き下げられている上に、政府からの補助金があります。日本ではワクチン注射が自由診療(費用は希望者が自己負担する)となっていますので、公費からの補助を早期に実現してほしいものです。

(三楽病院 中野美代子)

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