区民の皆様への医療情報

平成11年9月号 結核の正体は?

結核予防会理事長・青木正和先生のお話から

はじめに

結核は世界で増え続け、皆さんご存知のように国内では集団感染が多発しています。
これほど古今東西にわたって研究されている病気はあまりありません。
しかし今でもまだその発病や再発についての仕組みをはじめ、よくわからない問題も多く、「結核の正体は?」という質問に簡単には答えられないのが実情です。
日本では、昭和四十年代になって新しく発生する患者数も激滅し、「結核は、もう過去の病気と言ってよいのではないか」とさえささやかれた時期もありました。
ところが、その後の世界での患者数の増加の勢いから、全くそうでないことがはっきりしてきたのです。かつては根絶も期待された一つの病気が、今、恐るべき強敵として私達の前に立ちはだかっています。

世界の患者発生数の予測

世界保健機構(WH0)では、世界中の結核患者が増え続けていることに大きな危機感を持ち、結核非常事態宣言を出して、対策の強化を呼びかけました。その時の言葉が

「ただ戻つただけではない。今が最悪なのだ。」

です。 表1のように、世界の結核は増え統けています。

表1 世界の結核患者発生数の予測(万人)

天然痘と異なり、根絶は難しい

天然疽はその激しく特徴的な病像、強い伝染力、急性の経過などのために誰でも強く警戒しました。その上、種痘は極めて有効です。
これに対し、結核の症状は咳、発熱など特徴がなく、慢性の経過を取るので、感染は勿論、発病しても長い間誰も気づきません。
BCGは種痘ほど有効ではありません。しかも一度患染すると10年、20年無事でも、その後になって発病することもあります。天然疽のように一挙に根絶する方法は残念ながら今はないのです。

結核は空気感染する

結核は菌が呼吸細気管支より一番奥に達して初めて感染します。
飛沫の水分が蒸発し、飛沫核(裸の結核菌)になって初めて肺の奥まで到達でき、感染します。
飛沫核は軽く、長時間空中を浮遊します。このため、直接の接触がない隣室の新生児が感染し、髄膜炎を起こすという院内感染事件が起こるのです。
。診断が遅れると思わぬときに集団感染事件を起こします。表2に見るように、最近 は著しく増え統けています。この現実を忘れないことです。

表2 最近5年間の結核集団感染事件

結核菌はしぶとい菌である

感染しても発病する人は10%か、20%に遇ぎません。発病する人の半数以上は患染後l年以内に発病しますが、残りは5年、10年、あるいは20年後になって発病します。結核菌はしぶとい菌で、小さな病巣中の菌は何年も生き残り、病巣中で増殖しないのは細胞性免疫が働いているからです。糖尿病、腎不全、副腎度質ホルモンや抗ガン剤の投与などで免疫が低下すれば、菌は増殖を始めて発病します。結核の発病には、肉体的、精神的、社会的な多くの要因がかかわり、これが結核の病像を一層多様に、複雑にしています。

今でも化学療法中に死亡する患者は少なくない

リファンピシンの出現により結核化学療法は一段と強化されました。ストマイ、アイナ、パスの時代でも結核では死ななくなったので、今では100治るとされています。
しかし実際には、発病時塗抹陽性の肺結核 患者は9か月までに10人に1人、60歳以上では5.7人に1人(ただし、40%が結核死、60%は非結核死)が死んでいるのです。決してあなどれません。
非定型抗酸菌症(結核菌によくにているが、そうでない菌)の増加が結核を一層紛らわしい病気にしている非定型抗酸菌症は徴増を統けており、今では菌陽性で結核として人院してくる患者の17.4%にものぼっています。非定型抗酸菌症はX線や塗抹検査では結核と区別できず、人から人への伝染はしないし、治療法も異なるので、結核との区別は今後ますます極めて垂要になります。
当然、診断と治療を受持つ立場にある私達の責任と努力の必要牲を大いに感じています。

なお、結核について更に詳しく知りたい方は、結核予防会結核研究所長・森 享失生による、『なぜいま結核か』(岩渡プックレットNo.481 l999年6月発行)をお読み下さい。

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