区民の皆様への医療情報

平成11年4月号 「先生の丸くて大きな手」

「先生の丸くて大きな手」山崎孝樹(12才小学生)

第十七回「心に残る医療」入選作品から

「僕、修学旅行に行けなくても、もう泣かないから」
「あっ、本当?ありがとうね。そう言ってくれると、先生も助かるなあ。早く良くなるといいね」と言って、主治医のT先生は僕の頭をなでてくれました。
うれしくなりました。先生の手は、丸くて大きい感じがしました。

四月十四日、僕は血小板が減って三回目の入院をしました。
六年生になって、まだ一週間しか学校に行っていないのに、また入院でがっかりしました。それに、十六日後には修学旅行があります。とてもあせりました。
僕は毎日先生に「旅行に行きたい」と言いました。クラスの友達も「一緒に旅行に行けるように」と干羽づるを析って応援してくれました。
お母さんと先生が何回も話をしていました。

ある日先生が「旅行には行かれない」ことを言いました。
せっかく新しいリユックサックやズックも買ってあったのに。五年生の時からあんなに楽しみにしていたのに。
修学旅行に行けないなんて、絶対に我慢出来ない。くやしくて悲しくて泣きました。
看護婦さんも家族もなぐさめてくれたけれど、ずっと、ずっと泣いていました。

僕は、次の日から、回診の時も先生に返事や話をしなくなりました。
お母さんに、「旅行に行けないからって、先生が悪いんじやないでしょ。先生だって孝樹が旅行に行けるようにと、いろいろ検査もして、お薬のこととか考えてくれてるでしょう」と注意されました。
そんな事、分かってるし、自分の病気のせいなんだけど、自分でも気持ちをどうしていいのか分からなくて、本当は優しくて、おもしろい先生のことが大好きなんだけど「行かれない」と言った先生が悪いことにして、ロをききませんでした。

やっとのことであきらめた時、先生は僕が返事とかしなくても、嫌な顔もしないで、いつも同じで優しく話しかけてくれていたのに、悪いことをしたなあと思いました。
そこで先生に「もう泣かない」と言いに行きました。すると「ありがとうね。早く良くなるといいね」と言って、僕の頭をなでてくれたのです。
入院してから一週間しかたっていないのに、とても長く感じました。

時々、泣きたくなったけど、約束通り、退院までの一か月、我慢しました。
入院中、骨髄検査があり、先生は、僕がもう六年生で大きいからと、僕にも説明してくれました。少し偉くなった気がしました。
そして、「痛いけど我慢してね」と言ったけど、検査はT先生がしてくれたので、全然怖くありませんでした。
二回目の検査の時、僕は大好きな「ドラえもん」のマンガ本を見ていました。子供好きで明るくてやさしくて、丸い顔と手と腹。「なんか、T先生とドラえもん、似ているなあ」と思いました。こっそり「Tえもん」とあだ名をつけました。

僕が入院した五病棟では、病気の看護のほかに食事の世話や体をふいてあげたりとか、泣く子供もいるし、プザーが鳴ると看護婦さんたちは走り回っていました。
先生たちも夜遅くや早朝、病棟にいることもありました。とても大変そうで忙しそうなのに、僕たちがさぴしくないように、いろいろと親切にしてくれたり、話しかけてくれました。

退院後、運動会では半分の種目だけれど、出場できました。
障害走「親子のきずな」では、久し振りで思いっきり走り、僕とお母さんは両手を挙げて、派手に一位でゴールしました。
次の日、外来でそのことを話すと、「ヘえ-。すごいね。記念にカルテに書いておこう」と言って、本当に「障害定、親子のきずな一位」と書き込みました。僕は「あらららら-」と言って笑いました。看護婦さんもお母さんも笑いました。やっぱりおもしろい先生です。その日の宿題の日記に病院でのことを書くと、担任のE先生は、「孝樹君は、うれしいことがいっぱいあって、まわりのみんなもやさしくて幸せですね」と返事を書いてくれました。

僕はミニバスケット部に入っていたけど、病気になり、激しい運動はできないので退部しています。
この間、今年最後の試合があり、友達の応援に行きました。みんな頑張って走り、プレーしているのに、僕だけが応援席にいて、とり残されたようで、とてもさぴしい気持ちになりました。 でもその後の外宋で、先生の顔を見て、優しくおなかをさわられたら「治ったら何でも出来るさ」と思えて、元気が出てきました。

不思議な先生です。
僕は病気になり、くやしいこと、悲しいこと、さびしいことなど、いろいろありました。
でも、自分が病気でつらい時、優しくしてもらうと、普段よりとてもうれしくなることも分かりました。
僕は、恥ずかしくてなかなか声をかけてあげることが出来ないけれど、でもいつか、先生たちみたいに優しい人になりたいです。
僕も大きな手の人になりたいです。

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