区民の皆様への医療情報

平成10年6月号「少子化と人口減少社会を考える2」(厚生省)から

皆さんにご参考になるものを選びました 2

夫婦は理想としては平均で2.6人の子どもが欲しい、と考えているのに対し、1組の夫婦が実際に出生している子どもの数は2.2人になっています。

【要点】報告書のポイント

理想の子ども数を持たない要因

晩婚化の要因として指摘されている「育児に対する負担感、仕事との両立に対する負担感」のほか、以下のような点が挙げられる。

(1)子育てに関する直接的費用と機会費用の増加
教育を始めとして子どもに手をかけ、お金をかけること自体が意味を持つようになっていることにより、一層子育ての直接的費用が増加していること。
また、結婚や子育てを選択することによって継続就業を断念した結果失うこととなる利益(結婚や子育てにかかる機会費用)も上昇していること。

(2)子どものより良い生活への願望
教育にお金をかけたり、不動産を相続させるためには、子ども数が少ない方がよいと考えること。

平均出生児数と理想子ども数の推移

妻が理想の子ども数を持とうとしない理由

少子化は「男は仕事、女は家庭」という男女の固定的な役割分業、仕事優先の雇用慣行など我が国社会全体の状況に深く関連していると考えられます。

【要点】報告書のポイント

少子化の要因の背景

1.社会の成熟化に伴う個人の多様な生き方の表れ経済が成長し社会が成熱する過程で、個人の多様な生き方を目指すのは先進諸国にほぼ共通して見られ、未婚率上昇はその表れとも言える。

2.女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業意識と雇用慣行、それを支える企業風土の存在 出生率の低下は女性の社会進出過程で生じている側面が強い。
しかし、女性の社会進出が問題なのではなく、固定的な男女の役割分業意識やその実態・仕事優先を求める雇用慣行や企業風土が根強いため、結果として、結婚や育児が個人の自由を束縛し、結婚や育児に対する負担感や不安感につながっていることが問題である。
このことは、男性中心型の終身雇用、年功序列賃金体系などの固定的な雇用慣行のあり方そのものの見直しを問いかけている。

3.快適な生活の下での自立に対するためらい 親との同居によって快適な生活を享受している場合、快適な生活への欲求、独立した家庭生活を営むことに対する漠然とした不安感などから、経済的にも精神的にも自立を選択しようとしない(親離れしない)生き方やそれを許容する風潮が存在している。

4.現在、そして将来の社会に対する不安感 近年の出生率の低下は、日本全体を覆う閉塞感、年金や介護など老後に対する不安感、いじめ問題や地域の治安の悪化などをもたらすストレス社会に対する漠然とした不安感を反映している。

個人が結婚したいのにできない、子どもを持ちたいのに持てない原因があるとすればその原因を取り除くことは必要なのではないでしょうか。

結婚するしない、産む産まないは個人が決めるべき問題です。しかし、未婚男女の9割が結婚を望み、また結婚すれば理想子ども数を平均2.6人としていることを考えれば、個人が望む結婚や出産を妨げる要因を取り除くことは、個人にとっても社会にとっても望ましいと言えるのではないでしょうか。

【要点】報告書のポイント

少子化の要因への対応の是非

少子化の影響への対応を相当思い切ってするとしてもなお、21世紀半ばまでを視野に入れると、人口減少社会姿は相当深刻な状況となることが予想される。
個人が望む結婚や出産を妨げる要因を取り除くことができれば、個人にとって当然望ましいし、 その結果、著しい人口減少社会になることを避けることが期待されるという意味で社会にとっても望ましい。
このような観点から、少子化の影響への対応とともに、少子化の要因への対応についてもするべきである。

戦前・戦中の人口増加政策を意図するものでは毛頭なく、妊娠、出産に関する個人の自己決定権を制約したり、 男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応はとられるべきではない、というのが前提条件である。

子どもを持つ意志のない者、子どもを産みたくても産めない者を心理的に追いつめるようなことはあってはならない。

個人が、結婚や出産を自ら望んだ場合には、それが妨げられないような社会になるこどが理想です。
そのためには、何よりもまず「男は仕事、女は家庭」という男女の役割分業意識や実態、仕事優先の雇用慣行を 変えていくことが必要なのではないでしょうか。

【要点】報告書のポイント

少子化の要因への対応のあり方 1

少子化の要因への対応としては、現状においてとりわけ女性がその自由な意思で個人の生き方を選択する ことを妨げている固定的な男女の役割分業の実態や家庭よりも仕事を優先することを求める固定的な雇用慣行 を問い直し、これを是正することに取り組むべきである。

これらの実態や慣行は、社会の中で長い間に培われ、相当根強いものがある。
したがって、単に制度を改めるだけではなく、固定的な男女の役割分業や雇用慣行を支えている国民の意識や 企業風土そのものを問い直すことも必要である。

「男は仕事、女は家庭」という男女の役割分業意識や仕事優先の雇用環境を変えていくため、 今後検討すべき具体的な課題としては以下のようなものが考えられます。

【要点】報告書のポイント

少子化の要因への対応のあり方 2

(男女の役割分業、雇用慣行の見直しに関連して今後検討すべき課題)

(1)仕事優先に関わるもの
・長時間残業、休日出勤、年休取得の末消化
・産休、育児取得がその後の昇進等に響くような人事慣行
・同僚・顧客との付き合いなどの慣習による勤務時間外における拘束時間の長さ、家に仕事を待ち帰っての残業

(2)女性の就業に関わるもの
・結婚退職、出産退職の慣行
・中高年齢女性のいわゆる正社員としての中途採用枠の少なさ

(3)就業形態の多様化に関わるもの
・終身雇用制とそれを支える賃金体系、昇進制度、退職金等
・新卒中心の一括採用形態

(4)いわゆる正社員と短時間労働者、非就業者との公平性、中立性に関わるもの
・企業における扶養(配偶者)手当のあり方
・所得税における配偶者控除制度のあり方
・年金制度及び医療保険制度における被扶養配遇者の位置付けのあり方

結婚や出産の妨げを取り除く取組としては、子育てと仕事の両立、家庭における子育て支援など、子育てを支援するための対策を総合的かつ効果的に進めることも重要です。

【要点】報告書のポイント

少子化の要因への対応のあり方 3

少子化の要因への対応としては、固定的な男女の役割分業や雇用慣行の是正とともに、子育て支援のための諸方策の総合的かつ効果的な推進が必要である。

現在、既に「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)が推進されているが、少子化の要因への対応という観点からみた場合、特に次のことに留意すべきである。

・子育てのため継続就業を断念した結果失うこととなる利益(子育てにかかる機会費用)の上昇を考慮すると、仕事と育児の両立のための雇用環境の改善、多様な保育サービス等の確保が特に重要である。

・核家族化、都市化の進展により育児に親族や近隣の支援の受けにくくなっていることや地域の治安にも不安が高まっていることから、家庭における子育ての精神的、肉体的負担を軽減することも重要である。

・子育てのための経済的負担軽減措置については、子どもの有無や数に応じた公平性という観点、出生率回復への効果という観点など、それぞれの方策の持つ意義、現実的可能性や効果を総合的、多面的に考慮し検討することが必要である。

・男女共に子育ての持つ楽しみや喜びを再確認することも必要である。

子育て支援のための諸方策を検討するに当たっては、現行施策も含め、効果についての分析、 見直しを行い、より効果的な推進を図る必要がある。中核となるのは育児と仕事の両立に向けた子育て支援である。

様々な取組を通じて、結婚や子育てに希望が持て、子育ての喜びを夫婦ともに実感できるゆとりと潤いの感じられる 社会づくりを進めていく必要があるのではないでしょうか。

【要点】報告書のポイント

人口減少社会を「ゆとりと潤いのある社会」に

将来に対する国民の様々な不安を取り除き、未来に希望を持てる安心できる社会を構築していくことが人口減少社会への対応として最も重要である。

このため、少子化の影響への対応をするとともに少子化の要因への対応をする必要がある。その際中核となるのは、固定的な男女の役割分業や雇用慣行の是正、育児と仕事の両立に向けた子育て支援である。
これを基点としてその他関連施策全般に展開していくことが求められる。

このような取組を行うことは、個人の自立や自己実現と他者への貢献が両立する男女共同参画社会の実現を目指すということである。
そして、男女が共に育児に責任を持つとともにその喜びも分かち合えるような新しい家族像を基本に据えて、新しい地域社会や企業風土を形成し、次世代育成への社会的連帯を図るという形で我が国社会の新たな枠組みの構築を目指すということでもある。

こうして実現される社会は、出生率の回復への期待とともに、結婚や子育てに希望が持て、子育ての持つ本来的な楽しみや喜びを夫婦ともに実感できるゆとりと潤いの感じられる社会であると言える。

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