近年の自然食ブーム、健康志向の高まりに伴い、テレビ健康情報番組、新聞チラシ、中吊り広告、インターネットなどは健康食品の情報で溢れかえっています。
驚きの視力回復、膝の痛みが消失、奇跡的にガン完治、その他さまざまなインパクトのある宣伝文句や有名人の利用体験談などで見る人の関心を惹きつけます。
健康食品とは、不足しがちなビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養補給を補助する食品で「サプリメント」とも呼ばれます。他に生薬、酵素、ダイエット食品など様々な種類があります。健康食品はあくまでも「食品」ですので、病気を治すことを期待してはいけません。
近年の過剰なまでの宣伝効果で利用者は年々増加していますが、「クスリじゃなく自然食品だから体にいい」と気軽な気持ちで口にしたことがもとで、体調を崩した、治療中の病気が悪化した、新たな病気を引き起こしたなどという健康被害も増加しており、大きな社会問題となっています。
「天然の有効成分のみを抽出した自然食品」などと効能効果が宣伝されていますが、抽出されたことにより数倍〜数百倍に及ぶ不自然な量が健康を害する可能性もあるのです。
平成18年厚生労働省から「健康食品が原因と疑われる健康被害の報告例」が発表されました。近年、多様な方法で世界中から購入可能となった健康食品ですが、一部の商品を利用された方に健康被害が現れました。
ここでは厚生労働省が発表した”要注意”な健康食品と、その健康被害の一例をご紹介します。
ウコンは中国原産ショウガ科の植物で主に香辛料として用いられます。俗に「肝臓の機能を高める」といわれますが、日本で発生した健康食品による肝障害の原因の4分の1を占めるといわれます。
肝硬変の治療中の女性が粉末ウコンを毎日スプーンで1杯飲み、2週間後肝機能が悪化して肝不全で死亡したという事例があります。ウコンを服用して肝機能が悪化、黄疸が現れた2名の患者さんを筆者も経験しましたが、何れも即刻中止することにより回復しました。
消化器系に関しては食事中に含まれる通常量であれば安全とされていますが、過剰、長期の摂取すると下痢や腹痛などを起こすことがあります。胃潰瘍、胆石症の方は利用してはいけません。
アガリスクは日本名をカワリハラタケといいブラジル原産のキノコです。「抗がん効果がある」「免疫力を高める」などといわれ、米国レーガン元大統領が皮膚がんの治療に利用したことが報道され一躍有名になりました。
しかし動物実験で製品の一部に通常使用量の5〜10倍程度の量で発がん促進作用が認められ、厚生労働省は平成18年2月製品の販売停止、回収を指示しました。
また、アガリスクが原因による肝障害はウコンに次いで多いといわれ、厚生労働省は因果関係は特定できないとしていますが、劇症肝炎による死亡例も報告されています。
クロレラは淡水に生息する緑藻のひとつで多量の葉緑素や栄養素を含みます。「免疫力を高める」「コレステロール、糖質の吸収を抑える」などといわれ、その利用体験者を新聞チラシなどでしばしば目にします。購入者の9割がチラシがきっかけだったそうです。
副作用として日光過敏症がよく知られていますが、クロレラの細胞壁は厚いため吸収されにくく、吐き気、下痢、腹部膨満感などの消化器症状があらわれることもあります。ビタミンKを多く含有するため、ワーファリンなどの抗血液凝固剤を服用中の方は使用してはいけません。
「バストなど女性に大切な部分の脂肪は減らさず、余分な脂肪だけどんどん減らします」と無承認無許可ダイエット食品「天天素」が主にインターネットなどで販売されました。しかし、めまい、嘔吐、下痢、腹痛、動悸などの被害が相次ぎ、平成17年、約2ヶ月間服用していた都内の女子大生が心不全で死亡しました。
「天天素」を分析した結果、食欲抑制剤「マジンドール」と本邦未承認の肥満治療薬「シブトラミン」が検出されました。その他の中国製ダイエット用健康食品においても海外で数十人の死亡例が報告され、厚生労働省から健康被害者は総計124人、死亡例が3人にのぼると発表されました。
一部の中国製ダイエット用健康食品に検出されたフェンフルラミン(甲状腺ホルモン)は肥満治療薬として以前欧米で利用されましたが、肺高血圧による死亡例や心疾患が高率に引き起こされ1997年以降発売禁止となった経緯を持つ危険な薬剤でした。