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皆さんの健康と医療

平成13年12月号 膵臓を甦らせるために(全2ページ)

糖尿病のインスリン治療について (1ページ目)

糖尿病を治療するために、経口剤の服用からインスリンの注射へ治療法を変更することがあります。
その理由と効果について患者さんにご理解いただくため、くわしく説明をします。

患者さんの切実な質問

「一度インスリン治療を始めたら、死ぬまでずっと注射するんですか?」
「注射で血糖値が下がれば、また飲みクスリに戻れますか?」

いままで糖尿病のおクスリ(経口血糖降下剤→以下経口剤)での治療を行っていた患者さんの血糖値が次第に高くなり、止むを得ずインスリン治療へと変更する時に、必ずといっていいほど聞かれます。

しかし質問ならまだいいほうなのです。
「毎日毎日、くる日もくる日もインスリンを自分で注射するぐらいなら、いっそ死んだほうがましです」と言い放ったっきり、ぷっつり診察にも、クスリさえも取りに来なくなってしまう方もおられました。高血糖状態を無治療のまま放置することは極めて危険ですので、気がかりになって電話してみると、血糖値が下がると新聞広告に書いてあった木の根と薬草を煎じて飲み、自己判断で経口剤をも中止していたケースもありました。

糖尿病患者さんにとってインスリン治療は、日々の自由な生活が注射により束縛され、大変なストレスであることには間違いありません。患者さんにとって主治医から勧められたインスリン注射への治療変更は、無期懲役にも似た極めて残酷な不当判決に感じられるようです。
しかしちょっと待って下さい。私たちは、その日の気分でインスリン治療の開始を進言しているわけではないのです。

そこで、経口剤治療を行っている患者さんが、どのような状態になるとインスリン治療に変更せざるをえないのか、そして、果たしてインスリン治療から、再び経口剤の服用による治療や食事療法に戻ることは可能なものなのかを考えてみましょう。

経口血糖降下剤の限界

一般的に糖尿病薬と呼ばれる薬剤には、異なる効果のクスリが何種類もありますが、主に、膵臓のインスリン分泌細胞(膵B細胞)を刺激し、インスリンを血液の中に放出させて、血糖値を下げる作用の薬が多く使われています。

しかし長い間の経口剤の服用治療中に、食生活の乱れ、多量の飲酒や運動不足が続くと、次第に経口剤1日1錠の薬効では不十分となり、再び血糖値が上昇してしまいます。そこで患者さんご自身のインスリンの放出をさらに促し、血糖値を下げるためには、1日2錠からさらに3錠へクスリの増量が必要になってくるのです。

代表的な経口剤である商品名オイグルコン錠1日最大15mgまでが極量ですが、一般的に1日量7.5mgを服用しても血糖値の降下傾向がなければ、それ以上増量してもインスリン分泌は増加せず、血糖降下作用は頭打ちであるとされています。
長期間の経口剤の服用によって、次第に膵B細胞が疲労してしまい、この状態は”痩せ馬に鞭を打つ“と例えられます。膵B細胞がクスリの鞭を打たれながらも、懸命にインスリンを出して高血糖を抑えようとしても、患者さんご自身が乱れた食生活をしていれば、当然血糖値は下がらず、遂に膵B細胞連日の過労でダウンしてしまいます。
膵B細胞は瀕死の状態ですので、この状態で経口剤を増やして、強く鞭で叩いてももうだめです。

この状態が続くと、口渇、多飲、多尿といわれる高血糖に伴う脱水症状が現れ、早急に治療しないと、取り返しのつかない障害を招きかねません。血糖値が高い状態で、ただ漫然と経口剤を服用していることは、極めて危険なことなのです。

皆さんの健康を祈ります。 次のページへ 前のページへ